「人間・この劇的なるもの」福田恒存著(文庫本)
新潮文庫 1960刊(2017重版) 174頁 状態:A(美本。本文・小口・天地・カバー問題なく、綺麗なコンディションです)
<梗概>
人間はただ生きることを欲しているのではない。現実の生活とはべつの次元に、意識の生活があるのだ。それに関わらずには、いかなる人生論も幸福論もなりたたぬ。──胸に響く、人間の本質を捉えた言葉の数々。愛するということ、自由ということ、個性ということ、幸福ということ……悩ましい複雑な感情を劇的な「人間存在」というキーワードで、解き明かす。「生」に迷える若き日に必携の不朽の人間論。
<店主ひとこと>
劇作家であり、文芸評論家。シェイクスピアなどの英文学の翻訳でも知られた福田恒存氏の著作。話は演劇論としてはじまりますが、そこから導き出されるのは著者の人間論というべきもの。自由や個性、愛すること、幸福。これらは現代で盛んにもてはやされ、誰しもが求めようとするものですが、福田氏はそれらはみなが考える通りのものではないことをはっきりと断言しています。
自由とは本来、厭なものからの逃避を意味するものではなく、ひとびとがいま個性と呼ぶものはたんに演じたい役割ということに過ぎない。私たちが求めているのはことが起こるべくして起こっているという必然の感覚である、と著者は持論を展開します。いまから五十年も前に書かれた本が、現代を痛烈に批判し、それが芯を喰っているのでどうにもこの本を素通りすることはできません。
演劇からの話の展開になっていますが、あらゆる文芸の道に通じた著者のこの本は、小説を書く上での創作のヒントも実はかなりふんだんに含まれています。
文芸論、人生論、創作論であり哲学書。もの書きにとって本当に必要な本は、たぶんこういう本だと思います。