謎とき『カラマーゾフの兄弟』江川卓著 (単行本)
「謎とき『カラマーゾフの兄弟』」江川卓著 単行本 新潮選書 1991刊 初版 302頁 定価1050円 状態:B+(良好 帯付き)
<帯文・引用>
ドストエフスキー最後の、未完の大作に秘められた謎をスリリングに解き明かす! 大反響をよんだ「謎とき『罪と罰』」に続く第二弾。
「性」に憑かれたカラマーゾフ家の人々のなかでスメルジャコフの「性」はどうなっているのだろうか? この単純な疑問から私は出発した。そして、ドストエフスキー兄弟が発行していた雑誌「エボーハ」の記事や、同時代の作家ベチェルスキーの著書に触発されて、彼は去勢者ないし去勢派である、との結論を出した。その観点からあらためて『カラマーゾフの兄弟』を見直してみると、それまでその存在にさえ気付かなかったいくつもの「謎」がとけてきた。(著者)
<店主・コメント>
江川卓によるドストエフスキー謎とき第二弾。今回も面白そうな目次が目白押し。黒いキリスト、実現しなかった奇跡、3と13の間、逆ユートピア幻想、実在する悪魔……。埴谷雄高によるコメントが寄せられていますので、こちらも掲載いたします。
「謎とき『罪と罰』」が江川卓によって書かれたとき、これほど多くの謎がこめられていたのかという衝撃波の多層性が、私たちすべてを深く驚愕せしめたのであった。もはや書き尽くされていたと思われるドストエフスキー論を思いがけぬ角度から領域拡大するこの試みは、世界でもはじめての探索であって、本国ロシアでなく、吾国からそれがなされたことは、吾国におけるドストエフスキー愛好の質の深さを物語っている。さて、「謎とき『カラマーゾフの兄弟』」においては、「謎とき『罪と罰』」における黙示録の666の数字に対抗するかのごとく、3と13の数字が重い意味をもっていて、12人に少年使徒にかこまれ13年後に皇帝暗殺者となって十字架にかかるべきアリョーシャばかりでなく、無実の罪を担う情欲者ドミートリイも、生の渇望を呼ぶ大審問官イワンも、その位置を一変して、「カラマーゾフ万歳!」の少年達の唱和のなかに、ともに、昇華するのである。江川卓の謎ときは、負と暗黒をおった生と存在の昇華へ向かっての謎ときにほかならない。(埴谷雄高)