謎とき『罪と罰』江川卓著 (単行本)
「謎とき『罪と罰』」江川卓著 単行本 新潮選書 1986刊 重版 298頁 定価1200円 状態:B+(良好)
<著者文・引用>
精巧なからくり装置にもたとえられるこの小説の<謎とき>に打ちこめた三年間は、たいへん愉しい時間だった。何やらキーワードめいたものにぶつかって、その周辺を探りだすと、ドストエフスキーのテキストそのものが、私の予感を裏づけるような資料を次から次へと提供してくれるのだ。敬愛する偉大な作家と、想像力のいくぶんかでも共有できたかのように思えた瞬間――それは私にとってかけがえのない感動だった。(著者)
<店主・コメント>
目次には、「罰」とは何か、666の秘密、ペテルブルグは地獄の都市、13の数と「復活」神話――など、いかにも面白そうなものが勢揃いで並んでおります。ドストエフスキーの『罪と罰』に対して深い洞察を得たいひとにうってつけの本です。著者に対する丸谷才一さんの優れたコメントが裏書にありますので、以下掲載します。
ロシア文学では江川卓がよく出来る。その評判は前々から耳にしていたけれど、疑り深いわたしは、ロシア語が出来るだけだろうと高をくくっていた。しかし、岩波新書の『ドストエフスキー』とこの「謎とき『罪と罰』」を読んで、予想がまったくはずれていたことがわかった。江川さんはどうやら、語学の才と文学の感覚の双方を身に備えた、つまりしっかりと読んで深く考えることのできる、理想的な外国文学研究者らしい。江川さんは紋切り型のドストエフスキーの肖像を焼き捨てて、彼の本当の姿を二十世紀の後半に生かす。深刻に硬直した『罪と罰』は現代人のための古典として相貌を改め、われわれが今ここで読むに価するものとなる。大事なこと、斬新な説がいっぱい詰まっているおもしろい本が、こんなにやさしく、わかりやすく書いてあるのは、不思議な話だ。(丸谷才一)