「ヴァリス 新訳版」フィリップ・K・ディック著 文庫本
「ヴァリス(新訳版)」フィリップ・K・ディック著 山形浩生訳 文庫本 早川書房 2014年 初版 430頁 定価940円 状態:A(美本)
<梗概・引用>
友人グロリアの自殺をきっかけにして、作家ホースラヴァー・ファットの日常は狂い始める。麻薬におぼれ、孤独に落ち込むファットは、ピンク色の光線を脳内に照射され、ある重要な情報を知った。それを神の啓示と捉えた彼は、日誌に記録し友人らと神学談義に耽るようになる。さらに自らの妄想と一致する謎めいた映画『ヴァリス』に出会ったファットは……。ディック自身の神秘体験をもとに書かれた最大の問題作、新訳版!
<店主・コメント>
この小説は読む人を選びます。一般的に小説はそういうものですが、これは更に狭義な意味で人を選ぶと思います。ここに描かれている物語はある特殊な世界観のもとに描かれています。端的に言ってしまえば、通常からかけ離れた狂った世界です。けれどもその微妙な一線を越えてしまった人々にとっては、ここに描かれる世界は普段から身を置くような日常の側であり、P・K・ディックが云おうとしていることが理解できるのだと思います。しかし、そういうことは外から見た見せかけの差、ただのつまらない誤差に過ぎません。友人を亡くせば哀しむし、苦しんでいるひとが側にいたら不器用にでも手を伸ばそうとします。私がこの小説で惹かれたのは、そういうところです。たとえそれが奇怪なやり方であっても。一目見ただけでは理解不能に見える面もありますが、周りが狂っていると云おうが何だろうが、わたしたちは人間なんだということを、彼は小説を通して訴えているように思えます。誰にも真似できない強い言葉で。